川口松太郎 新派十選


明治一代女

明治二十年六月の或る夜、東京日本橋浜町、待合“醉月”の花井梅が梨園の人気俳優に夢中になり、雇人峰吉を裏切り、ついに殺害してしまう。この事件を題材として、川口松太郎は昭和十年“オール讀物”に、お梅を純情一途な芸者に、己之吉を律儀な田舎者の箱屋として発表。すぐに劇化され、新派劇の代表的な名狂言として数多く上演される様になった。(初演・昭和10年11月花柳のお梅で、於明治座)


鶴八鶴次郎

花柳、水谷の名コンビで初演。以来新派名作として度々上演されている。鶴八と鶴次郎が喧嘩別れをする場や、身を落とした鶴次郎が場末の居酒屋で、番頭佐平と酔い痴れて語り合う場等、川口新派劇の傑作として評価を挙げた作品。(初演・昭和13年1月 於明治座)


風流深川唄

昭和十年直木賞受賞作品。舞台化されたのは昭和11年10月東京劇場で花柳、大矢等によって初演された。木場深川の料亭を舞台に、古い伝統の中に生きる人々の物語は新派劇として代表的な演目の一つである。(初演・昭和11年10月 於東京劇場)


月夜鴉

長唄の家元の独り娘お勝と内弟子和吉は芸道修行中に恋仲になるが……。初演は花柳、伊志井のコンビで、その後、水谷八重子・伊志井のコンビで上演されるようになった。(初演・昭和14年5月 於明治座)


初夜

浅草生まれの川口氏が浅草への郷愁を描いた作品。両国の花火や贋造紙幣の老職人の話が種々の起伏を織りまぜて展開していく。(初演・昭和28年11月 於明治座)


遊女夕霧

“人情馬鹿物語”第三話で、同年明治座の”春の新派祭”で劇化上演された。大正10年の頃の吉原の女郎夕霧と深川森下町の講釈師円玉との心の通い合いの物語。(初演・昭和29年4月 於明治座)


深川の鈴

川口の自伝的要素をもった作品。氏が深川の講釈師円玉に寄宿していた昭和10年頃が背景となっている。小説”人情馬鹿物語シリーズ”の第四話である。花柳章太郎が”奴ずし”の女将お糸に扮して初上演。(初演・昭和29年8月 於歌舞伎座)


皇女和の宮

昭和28年朝日新聞(夕刊)に連載された小説を二年後劇化。公武合体の為、江戸幕府将軍家に降嫁となった皇女和の宮と有栖川帥の宮の悲恋の物語は花柳の品格と水谷の可憐とも思える名演で深い感銘を観る者に与えた。(初演・昭和30年7月 於明治座)


銀座芸者

「銀座シリーズ」の三作品の一つである。戦後の酒場やキャバレーに取って替わられた街の中にあって、新橋芸妓意地の世界を現代劇として描き話題を呼んだ。八重子、翠扇、桜、霧立、阿部、つや子等、新派女優総出演の華やかな舞台となった。(初演・昭和33年10月 於新橋演舞場)


花のいのち

水谷良重(現・二代目八重子)と母・初代八重子の共演第一作。横浜のナイトクラブを背景に、両者の心の葛藤を描き出した秀作。(初演・昭和35年10月 於新橋演舞場)